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台風の襲来を待つ沼部駅

小山正見

台風のスピードが異常に遅い。当初は火曜日に上陸し、木曜日には日本海に抜けると思われていた台風10号はまだ九州あたりに留まっている。関東への到達は来週にかかりそうだ。
9月1日は、厄日。丁度二百十日に当たる。くわばらくわばらである。
久しぶりに多摩川線に乗った。大田区立のY小の研究授業の相談に乗るためだ。
素敵な先生方が揃っており、しっかり授業プランが練られている。意見を差し挟む余地などないと思ったほどだ。
沼部。この駅は、多摩川から一駅目に当たる。懐かしい駅だ。高校時代の3年間
、ぼくはこの駅で降り乗りした。
名前は田園調布高校なのに、全く田園調布らしい土地ではなかった。
通学路に当時の共産党の議長だった野坂参三の家があり、警察官が四六時中警備していた。東京オリンピックを前に新幹線が開通し、学校のすぐ横を通った。通るたびに校舎が揺れた。
長野県から移設したという古い体育館でバスケットをよくやった。これまた、古びた食堂があり、休み時間にラーメンを食べた。確か40円だった。
高校とはこんなに自由なところなのかと嬉しかった。小中学校のことはほとんど覚えていないのに、高校あたりからは記憶がグッと増えている。
23時55分新宿発の夜行列車に乗って秩父の山々に登りに行った。
最大の思い出は、高校3年生の冬休み、今でも親交のある美術部のM君について、八ヶ岳の主峰赤岳を目指した事だ。夏山用のデントを張ろうとして大学生のグループに「死ぬぞ」と止められ、結局赤岳鉱泉に泊まった。
絵を描いていると水彩絵の具が画用紙の上でジャリジャリと凍った。
朝日が阿弥陀岳にあたり風に舞う雪がきらきらと舞った。夜の満天の星が忘れがたい。
生きているうちにもう一度あの星空を見ることが願いだ。
ぼくにとって、沼部は最も懐かしい駅のひとつである。