【大好評】「咲満ちて小山正見の俳句フォト カルタ」販売中!

ひつそりと門を閉ざしぬ夏館

小山正見

思い立ってここに出かけてきたが、休みだった。写真のこの門構、正に夏館ではないか。
実は、ここは画廊なのである。
昔はどなたか様のお屋敷だったところを福岡にある会社が買取り画廊にしたと言う。広々としたリビングがあり、和室もある。それらの部屋にさりげなく絵がかけられている。中には、本物のピカソもルノアールもあったと記憶している。現代作家の個展もよく開かれている。庭もよく整備されていて、彫刻が据えられている。
静かで優雅な空間だ。のんびりと絵を眺め、庭の風の音を聞く。心地よい時間が過ぎていく。私の好きな場所の一つだ。
よく覚えていないが、初めてここに来たのは六年も七年も前だったように思う。すでに認知症を患っていた妻と一緒だった。豪華なソファに腰をかけると驚いたことにコーヒーが振る舞われた。さらに横にはGODIVAのチョコが添えられていた。(今はコーヒーは出てこない(笑))
コロナが流行する前、妻とよく散歩をした。横浜の山下公園や煉瓦倉庫はお気に入りの場所だった。元町や港が見える丘公園にもよく行った。横浜ではないが、この画廊近辺もその散歩コースの一つだ。
散歩はいい。二人で家の中に居ても話がそれほど続くわけではない。そのうち煮詰まってしまう。外に出ると空気が変わる。歩くと次々に景色が変わるので会話も弾む。話が途切れても沈黙が不自然というふうにはならない。それに何より健康によい。体を動かすことになるし、陽に当たると精神的にも明るくなる。

妻の症状が次第に重くなり、ぼくは仕事をやめることを考え始めた。
その年の夏。所属している俳句結社「梓」で創立十周年の記念作品の募集があった。
妻との暮らしを描いた「大花野」二十句は、第一席に選ばれた。表彰式も行われるはずだった結社の記念行事はコロナの影響で遂に中止になってしまった。中止の知らせを受けてがっかりした私は、その時、この二十句を句集にすることを思い立った。
朔出版の鈴木忍さんが上手に本に仕立ててくれた。それが句集『大花野』である。
ある種の極限状況で編んだ句集である。読み返してみるとその時にわからなかった自分の気持ちが透けて見えてくるような気がする。
認知症と介護の問題はこれからの課題でもある。多くの人と語り合いたいと願っている。
江東区の芭蕉記念館で「大花野を語る会」をこの8月9日(金)に催してくれることになった。
ありがたい。
もし、まだ句集『大花野』を手にとったことのない方がいれば、ぜひ読んでいただきたいと願っている。またお知り合いの方に紹介していただければ幸いである。
Amazonでも手に入るし、私に連絡くださってもありがたい。

https://amzn.asia/d/dXgwKHX