【大好評】「咲満ちて小山正見の俳句フォト カルタ」販売中!

炎天を立原道造てふ魔物

小山正見

7月の終わりの土曜日、地下鉄都営新宿線の馬喰横山の駅で降りた。中央区東日本橋3-9-2にあるトラットリア リンシエメに行くためである。
ここである催しが行われた。
立原道造生誕110年記念ランチ会。
主催は立原道造の会。
実はこの場所に立原道造の生家があった。記念すべき場所で記念する年を祝おうというわけだ。
集まったのは10数名だが、中には大阪から来られた人や福島から来られた方もおられた。
多くの方が中学校か高校の教科書で立原と出会い、ファンになったと話された。
普通の詩人の場合は「読者」だが、立原の場合は「ファン」なのだ。全集を手に入れたり、図書館で読んだり、立原が立ち寄った場所を追体験した方も多かった。25歳で夭折した天才詩人立原には強烈に人を惹きつける魔力がある。
だか、最近は立原を知らない人が増えたという。どうしたらいいだろうという話も出た。
家に帰ってから立原を読み直して見た。
76歳の僕も胸がざわざわする。
多くの人に届けたら、読んで人生が変わるという人が現れてくるかもしれない。魔物は外に放すべきだ。
おそらく、立原の一番知られた詩「のちのおもひに」を記す。気に入ったら、その部分をカットしてシェア拡散して欲しい。多くの人に読んでもらえるように。

炎天に立原道造てふ魔物

のちのおもひに  立原道造

夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を

うららかに青い空には陽がてり 火山は眠ってゐた
――そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう