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黒々と冬を呑みこみ隅田川

小山正見

向こうに見えるのは清洲橋である。清洲橋はケルンのヒンデンブルク大橋を模したと言われている。当時の最高級の軍事用の鉄を初めて用いたと橋である。ライトアップされると見事だ。
写真を撮している場所は新大橋。江戸時代、芭蕉の生きた時代にできた橋だが、両国橋が「大橋」と呼ばれたのに対して「新大橋」と呼ばれた。
芭蕉は、新大橋について次の句を残している。
「初雪やかけかかりたる橋の上」
「ありがたやいただいて踏むはしの霜」
新大橋と清洲橋の間に芭蕉庵はあった。
現在はその近くに芭蕉記念館が建てられ、芭蕉展望史跡公園がある。公園の芭蕉像が動くのは有名な話だ。夜になると隅田川に顔をむけ、ライトアップされるのだ。
おそらくバブルの前の発想だろう。
景観も財産のうちだ。滔々と流れる隅田川を見ながらの暮らしはどんなにいいだろう。
そんなことを考え、学校を退職後、隅田川に近いマンションの一室を借りて一年間住んだことがある。築五十年を超えたマンションで非常階段は朽ち果てていた。
近くの常盤湯という銭湯に通うのが楽しみだった。番台には九十を過ぎたかと思われるお爺さんが座っていたが、時々脱衣所に降りてきて、ストレッチしているのには驚いた。猛烈に湯が熱かった。
今、常盤湯は次の代になり、サウナも完備され、行列ができるほどだという。
隅田川が見えるこの地域は、ぼくにとって第二の故郷だと感じている。