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額縁の中に椎の木椎の花

小山正見

二日目の吟行の場所は、吉川英治記念館だった。吉川英治は、昭和の大作家だ。『宮本武蔵』や『新平家物語』を始め数々の長編小説をものにした。
1962年に71歳で亡くなった。
青梅市に吉川英治の記念館があるのは、戦時中、当地の地主だった野村家を譲り受け、住居にしたことに依る。
大豪邸の庭の真ん中に樹齢500年とも600年とも言われる大きな椎の木があり、英治はこれが好きで客があると椎の木の下で遇したそうだ。
記念館を作る際に、そのことから、眼前の椎の木が窓の額縁の中に収まるような設計にした。とは、ガイドの話である。
熱弁をふるうガイドの話を聞きながら、僕は別のことを考えていた。
一つは、屋敷を売った野村家はその後どうなったのかということ。二つ目は吉川英治の子孫はどうされているのかということだった。
テレビもネットもない社会では、小説は最大の娯楽であったろう。長編小説は時間潰しにも打ってつけだったに違いない。
吉川英治の小説は概ね歴史小説であるが、英治の生きた昭和の時代の空気を色濃く反映している。それがうまくいけば行くほど、異なる時代には合わないということにもなりかねない。
どんなに優れた作家も死んだら読まれなくなる。そういうものだと思う。源氏物語は千に一つの例外である。(実際に自分で読んだ人は数えるほどしか居ないだろうが)
英治の子孫がどうしているか、気になったのでネットで調べてみた。
すると「吉川英治の孫を大麻所持で逮捕」という記事が真っ先に出てきた。
悲しい話だ。思い出は額縁の中にしまっておくしかない。