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青芝の洋々として学舎立つ

小山正見

江東区立八名川小学校である。六年間在籍した。自分にとって最後の学校だ。思い出は数限りない。
学校選択制の時代、着任した当時の児童数は、百六十人。それが退職する六年後には、三百三十人を超えた。「悲願の二クラス」にもなった。廃校の危機からは完全に脱出できた。
「ワンランク上の教育」とか「夏休みこどもは家庭に返さない」「江東区の子どもに新大橋は渡らせない」(中央区への越境を食い止める)など、チープなスローガンを乱発してやりたい放題だった。
「毎日更新のホームページ」から始まり、「塾講師の導入」、「ICタグによる児童の登下校の安全管理」、江東区初の「げんきっず」の誘致、ウィークエンドスクール、全学級での保護者による読み聞かせ、花丸補習教室、俳句教育、やながわファミリーの創設etc.
保護者や地域の方々に過大な負担を強いたが、皆面白がって(面白がったふりをして?)やってくれた。猛烈な地域な力を感じ、助けられた。足を向けては眠れない。
面白いことはまだまだあるが、その最後の取り組みが「緑の学校構想」だった。
ぼくの計画では、屋上緑化、壁面緑化、校庭の芝生化、緑のカーテン、そして校舎内を植物で埋めるの五点が柱だった。
屋上には軽量の土を入れての緑化を考えたが、区の施設課に相談したら、耐震の関係からにべもなく拒否された。壁の緑化も予算面から断念せざるを得なかった。緑のカーテンの網は、ある工務店がただで提供してくれた。その当時新たにできた地域の「お花の会」のメンバーが校内を花で飾ってくれた。
校庭の芝生化は、当時はどの学校も消極的だった。最初に手を挙げれば実現は確実だが、実は相当に悩んだ。問題点は、二つ。一つは養生期間が必要で、その間校庭が使えなくなること。もう一点は、芝の強度や手入れの手間の問題だった。
これも地域にお礼を言いたい。隣の八名川公園を校庭の代替として快く使用されてくれたのだ。緑のボランティアが組織され芝刈りが定期的に行われた。
しかし、急速に増えた児童数に芝が耐えられなかった。養生期間が過ぎ一週間もするとはげ始め、運動会が終わるともう悲惨でしかなかった。
地域のサッカークラブにも迷惑をかけた。気持ちよくサッカーもできるだろうという思いだったが、逆になってしまった。忸怩たる思いだ。校庭の真ん中に立って芝のことばかり考えていたこともあった。
負の遺産を残してしまったのではないかと十五年間悩んできたが、今年、運動会の終わった今も八名川小の校庭は芝が青々している。経験の蓄積が強い芝を育てるノウハウを高めたのかもしれないし、折り合いの付け方が上手になったのかもしれない。副校長さんも、「芝の気持ちの良さ」「怪我が少ないこと」「熱中症対策にもいい」と利点を挙げてくれた。
いずれにしてもありがたい。感謝しかない。