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菜種梅雨明け雑踏の雷門

小山正見

昨日までの雨があがった。人に会う用があり、久しぶりに浅草に出た。すごい人だ。雷門の前は身動きのできないほど、人で埋まっている。自撮り棒で記念写真を撮っている外国人の家族、レンタル和服を着たカップル、中には大きな旅行カバンを引っぱっている人もいる。
春の陽が眩しい。
仲見世も新仲見世も人、人、人。
私は二十四歳から五十五歳までの三十一年間、業平橋に住んでいた。浅草の隣の駅である。
しょっちゅう浅草に出かけた。mistyという喫茶店があり、入り浸っていた。
ジュークボックスにあったフランソワーズ・アルディの「もう森になんか行かない」を繰り返しかけて聴いた。

よく夕飯を食べた「ぱいち」という洋食屋はまだ健在だ。和風のビーフシチューが名物である。
余荷解屋という店があった。新仲見世のやげん掘の唐辛子屋の隣だ。
あんちゃんらしき人が、てき屋のように
「これだけ付けて一万円、もってけ!泥棒!」
と啖呵を切った。金ぴかの腕時計、自動車の置物、ラジオetc.次々に品物が積み上げられていく。話術に惹かれて、長い時間をその店の前で過したこともあった。
浅草には三十年間の様々な思い出が詰まっている。
中で、一番印象に残っているのは、浅草六区を歩いていた時、
「あんちゃん、仕事あるよ」
と声を掛けられたことだ。(笑)