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立春のジャムはオレンジママレード

小山正見

このオレンジママレードを見た途端、記憶が48年前に飛んだ。
プラスチックの容器に入ったジャムを初めて見たのは、JALパックで行ったヨーロッパ旅行だった。
こどもができたら、行けない。その前に行こうと妻と話した。1ドル360円の時代で、トラベラーズチェックというものがまだあった。相当なお金が掛かったと思われるが、妻が全て切り盛りしてくれた。
アンカレジを経由してオランダのアムステルダムからロンドンに入った。赤い二階建てバスに目を丸くした。
そして朝食についてくる「ジャム」!
これはヨーロッパ旅行の象徴だった。今なら、それが安上がりなのだと分かるが、初めて見た目には、実に新鮮だったのだ。
ステーキというものを初めて食べたのもこの旅行だった。
パリの街角の食堂に入って、ピザだったか、スパゲッティだったかを食べた。ひどく塩辛かった。食堂の奥でその家の子どもが食事をしていた。皿いっぱいのグリンピースが湯気を立てていた。
人々の服装は質素だった。白いブラウスばかりが目についた。町には「セール」の張り紙な溢れていた。「これがヨーロッパか」と半分拍子抜けしつつ、強烈な印象が残った。
ローマの街角の屋台の鮮やかで大きなオレンジやナポリの街路の上の洗濯物。
現地に行き、自分の目や皮膚から直接得た経験は、脳の奥底に刻み込まれるのだろう。
次の年にこどもが生まれ、仕事にかまけ、ヨーロッパはすっかり遠くになった。
願わくば、息のあるうちに、もう一度ヨーロッパに行ってみたいものだ。