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瞬きて寒オリオンの勇姿かな

小山正見

帰宅が遅くなって、ふと見上げると南の空にオリオン座が美しい。思わず写真を撮った。
よく見ると有名なオリオンの三つ星の下に縦にも三つ星が並んでいる。これを小三つ星と言うらしい。肉眼では見えなかった。
空気が乾燥しているせいか、月が煌々と照っているのに、これほど星が見えるとは!
これまでの人生で見た一番美しい星空は高校三年の冬だった。
仲の良かったMくんが冬山に絵を描きに行くというので、頼んで連れていってもらった。
リュックの中には受験道具を詰め込んだが、受験から逃げたい気持ちが満載であった。
よく親が許したと思う。
行き先は、裏八ヶ岳だった.
美濃戸口でバスを降り、そこからリュックを背負って登った。
少し陽が傾きかけた頃、テントを張ろうということになった。作業をしているとそこに大学生の一団が通りかかった。
「こんなところにテントを張ったら死ぬぞ」
と脅かされた。
ぼくたちの持っていたテントは、夏山用だったのである。そんなことも知らずに冬山に挑戦したのだから如何に無謀だったかがわかる。
大学生に言われてぼくたちは、赤岳鉱泉に泊まることにした。死ななくてよかった。
朝になると硫黄岳の山頂に朝日が当たる。風で巻き上げられた雪がキラキラと光った。
夜はそれこそ満天の星だ。
これ以上の星空に未だ出会わない。
昼間は二人で絵を描いて過ごした。
水彩の絵の具が画用紙の上でじゃりじゃりと音を立て凍っていく。山小屋の中は、ストーブをがんがんに焚いても室温は3度にしかならなかった。
今となれば青春の良い思い出だ。
M君とは今でも仲が良い。
死ぬ前にあの星空にもう一度出会いたいものである。