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煌々と十日余りの月の晩

小山正見

玄関のチャイムが鳴った。出ると近所のAさんだった。
「安かったから」とバナナの束とパンを手渡された。先日はお隣のMさんからお惣菜の差し入れを頂いた。妻がグループホームに入居してから、いやそれ以前から様々な配慮を頂いた。つくづく有難いと思った。
Aさんが「今夜の月はとてもきれいよ」と教えてくれた。
外に出た。既に中空に月は掛かっている。写真を撮ろうとしたが、電線が邪魔をする。
思い立って公園に行った。ここなら電線に邪魔されない。
三年前、妻がホームな入居する直前だった。ベンチに座って月を見上げたことを思い出した。
この公園は懐かしい。子どもの頃はここがホームグラウンドだった。馬跳びや石けり、ビー玉、ベーゴマ、何でもやった。
三角ベースも楽しい思い出だ。
ある時、野球禁止の立て看板が立った。次の日、僕らはその看板を引き抜いて倒した。引き抜かれないようにと看板の底に打ちつけられていた板が無惨に見えた。
今年の中秋の名月は17日である。
十日余りのの月とは、上弦の月よりやや膨らんだ月だが、光り方だけ見ると既に満月の風格がある。
月の呼び方には、風情がある。
「一日」を“ついたち”と読むのは「月立ち」の意であり、「朔」とも言う。
「十三夜」とか「後の月」という言葉も美しい。中秋の名月の一月後のことである。二番目に美しい月とされ、日本で始まった風習とされる。
ぼくが子どもだった頃からあったぶらんこを揺らしながら、しばらくの間月を眺め続けた。
静かないい時間だった。