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湯河原の四月三日の湯楽かな

小山正見

次の日の2017年4月3日の写真を調べてみた。3枚だけあった。一枚はこの写真で後の2枚は、妻が朝食をとっている様子を撮ったものだった。
「そうか湯楽という宿に泊まったのか」
この宿は今でもある。地元野菜を使った創作イタリアンが売りだという。おそらくこの時の食事もイタリアンの創作料理だったのだろう。
この写真は宿の人に撮ってもらったものだ。@時刻は11時07分とある。チェックアウトのぎりぎりまで宿にいたことがわかる。歩き回った記憶はないので、すぐに東京に戻ったのかもしれない。
旅行に行くのは「楽しい」ものとばかり思い込んでいたが、妻にとってはそう単純なものではなかった。
ある時「あなたについて行くだけで大変」といったことがある。自分が何処にいて何をしているのか、混乱が生じるのだ。不安が大きくなり、どうすれば良いか判断ができなくなる。
特に夜中に目を覚ますと、一体自分が何処にいるか皆目見当がつかない。隣に寝ているぼくの顔もわからない。
「ここは何処!」と叫びたくなる気持ちだろう。
この時はまだそういう状況まではいってなかった。
2年後の2019年の旅行では顕著にそうした兆候が現れた。加えて、一人でお風呂に入ることが難しくなった。
「旅行に行くのはもう無理かな」と落胆した。
句集『大花野』で
手を繋ぎ祭の夜を彷徨す
と詠んだが、手を繋げば不安が消えるのだ。一緒にいるという実感と安心感が持てる。
恋人同士に戻った瞬間であったのかもしれない。