【大好評】「咲満ちて小山正見の俳句フォト カルタ」販売中!

梅雨近し時には源泉かけ流し

小山正見

多摩市の学校に俳句の授業に出かけた。午前中で終ったので、思い立って帰宅の途中に南武線の溝の口で降りた。影向寺(ようごうじ)に行ってみたいと思ったからだ。
影向寺は奈良時代に僧行基によって開かれたと伝えられている。
本尊の薬師如来両脇侍像は国の重要文化財の指定を受けている。
私が影向寺について知ったのは、写真家小池汪の写真集『影向寺』においてだった。写真集は1983年に出版社花林から出ている。仏像の写真が素晴らしい。
小池汪は川崎を代表する写真家の一人である。歌人馬場あきこが監修した『川崎地名百人一首』に登場する百枚の写真は全て小池汪によるものである。どの写真も眼をみはる。
小池汪は、亡くなる前「風景があっていろいろ変っていくけれど、その中に住んでいる人たちはいつも幸せじゃなきゃだめなんだよ。ウクライナみたいになったらだめなんだよ。」と小学生に語ったと言う。残念ながら昨年の七月に没した。
バス停の影向寺で降り、坂をのぼること7、8分であろうか。こんもりした林の中に影向寺はあった。
力石があり、塔心礎だった石が「影向石」として残されている。くぼみには常に霊水がたまり、その御利益から寺の名前になったとのいわれがあるそうだ。
境内には人の姿はない。薬師堂の奥には樹齢五百年とも言われる大銀杏が聳えている。詩人西脇順三郎の詩碑があった。
帰路、ふれあいの森の急坂を下ると尻手黒川通りに出る。ここからバスで終点の井田営業所まで行くと、我が家は歩いて15分ほどだ。
ところが、である。バスは行ったばかりで30分以上待たねばならないことがわかった。
がっかりして目をあげると目の前に「溝口温泉 喜楽里」の看板があった。
迷わず、一風呂浴びることにした。
午前中は子どもたちと俳句で遊び、午後は名刹に遊び、ゆっくりと温泉に浸かる。
何と幸せな一日であったことか。