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平積みの本の匂ひや秋深む

小山正見

大田区のY小学校の研究授業の助言を頼まれて伺った。内容は、商店街との触れ合いを俳句フォトにするというものだった。子どもたちの作品には思いもよらぬ発見があり、素直な気持ちが写真と俳句に表されていた。
もちろん、細かなところで手直しは必要だろうが、「四年生の子どもたちがここまでできるのか‼️」というのが率直な感想である。同時に「俳句フォト」という方法に大きな可能性を今一度感じることができた。
この実践を支えていたのは、先生方の「俳句は楽しい」という思いとたゆまぬ探究心だ。
学校もまだまだ捨てたものではない。久しぶりの感動を覚えた研究授業だった。
帰りに本屋に寄った。地元の元住吉の本屋が閉店したのが十月七日。それ以来初めての本屋である。
今までは、通りすがりに本屋に寄れた。毎日本屋の前を通り、吸い込まれるように本屋に寄った。買うわけではなくても、こんな本が売れてるのかとか、「新しい本が出たな」等肌に感じることができた。
無くなってみるとそうはいかない。「本屋に行こう」と決めて、本屋がある駅まで電車に乗らないといけないのだ。
本屋に入ると微かに本の匂いがする。(正確に言えばそんな気がする)心がすーと落ち着く。
ぼくは「本屋が好きなんだ」と思った。(本も好きだが、本屋も好きだ)
三十代から四十代にかけて、日曜日ごとに神保町の本屋に通った。車を学士会館の駐車場に停めて、東京堂や書泉グランデを巡った。書店グランデの栞が山積みになる程貯まった。
しかし、どの本を買うか。迷うことが多かった。一冊の本を選ぶのに二時間も三時間もかかったこともあった。そうなると、優柔不断の自分にイライラしてくる。
平積みの本を前にしてそんな決断力のない自分を思い出した。
ある作家の「面白い本がちっともないから自分で書くことにした」という話を聞いたことがあるが、ぼくは逆だ。
こんなに山ほど面白い本があるのだから、自分で書く必要など一つもないではないかと。
この日は、二冊の本を買った。
一冊は、長谷川櫂の『おくのほそ道』(NHKの100分de名著)。もう一冊は『精選女性随筆集 向田邦子 小池真理子選』買ってからまるで大正時代みたいに大袈裟な題の付け方だなぁとおかしかった。