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大南風(おおみなみ)今や時代は伊藤野枝

小山正見

久しぶりの紀伊國屋ホールだった。
青年座の「ケンツブロウヨー伊藤野枝ただいま帰省中ー」を観た。
昨年観た宮本研の「美しきものの伝説」も伊藤野枝の話だった。
伊藤野枝は平塚雷鳥の青鞜社を手伝うことから社会運動家に成長した。雷鳥から青鞜社を受け継いだ野枝は「無主義、無規則、無方針」をモットーに雑誌を一般女性に開放した。
私生活では親の決めた婚約を破棄して結婚した辻潤と離婚し、妻や愛人のいた大杉栄を巡っての四角関係にのめり込んだ。
28歳で野枝は大杉榮と共に関東大震災後甘粕事件で憲兵に虐殺された。
舞台は野枝の福岡の実家に帰省中の野枝にだけ限定し、野枝を描くやり方は独特だった。
第一場は野枝の出奔する場面。第二場は辻潤を伴っての帰郷。第三場は大杉栄と一緒だ。それを受け入れる家族の在り方も興味深かった。
野枝は自立する女性の象徴的な存在で、正に現代的な課題だ。
芝居は「無政府主義万歳」と叫んで終わったのには笑ってしまった。今の世に無政府主義者など、どこにいるのか。
しかし、どんな権威にも屈せず自らの生を全うすることが理想であるとすれば、無政府主義という考え方はある意味では、一つのヒントになるかもしれない。
ただ人間は集団で生きる動物という側面もあるから、結構悩ましい問題ではある。