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夏帽の百三歳を偲びをり

小山正見

山崎剛太郎さんの遺品の夏帽を、今はぼくが被っている。
剛太郎さんが百三歳で亡くなられてから二年以上が過ぎた。
山崎剛太郎さんは、詩人で小説家。
若き日の彼の小説『薔薇物語』は芥川賞の候補にもなったと聞いた。本業は、フランス映画の字幕翻訳で、この分野での草分け的存在である。
山崎さんは、ぼくの父・小山正孝の生涯の親友であった。府立四中で出会ってから、親交は七十年に渡った。
ぼくの記憶は、多摩川園遊園地でお猿の電車に乗せてもらったこと、そして東宝東和の試写室で見せたもらった「沈黙の世界」と「赤い風船」の2本の映画だった。カラーの美しい画面は鮮明に記憶に残った。
次に山崎さんに会ったのは、映画「モリエール」であった。フランスが生んだ大喜劇作家モリエールの生涯を描いた大作で、上映時間は四時間を超えていた。これをぼくは、神保町の岩波ホールで観た。この映画の字幕を担当したのが山崎さんだったことは観終わってから知った。1970年代の終わり頃の話である。
山崎さんと言葉を交わしたのは、父が亡くなったあとの津田山の火葬場であった。それから二十年。山崎さんは、父正孝を顕彰する「感泣亭」の事業をずっと応援して下さった。
わずかに恩返しできたのは、コロナの間隙をぬって、女優の梶三和子さんによる朗読「山崎剛太郎の世界」を企画し、池袋の明日館で百人を超える方に聴いていただいたことである。最後に山崎さん自身が壇上に上がり、ご自身の生き方である「シンプル・ピュア・コンパッシオン」について力強く話され、皆に感動を与えた。山崎さんが亡くなる半年前の秋であった。
『忘れ難き日々、いま一度、語りたたきこと』は、山崎さんが一番信頼を寄せていた渡辺啓史氏の編集により昨年発行された。(春秋社刊)
山崎さんの肉声を伝える最後の本である。
我が家にも数冊残部がある。山崎剛太郎さんの肉声を聞きたい方がおられたら贈呈したいので連絡をいただきたい。