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二ケ領用水さくらの壁のある如く

小山正見

東京新聞川崎版4/6「小山正見のかわさき俳句フォト」です。
本年度もよろしくお願いいたします。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/396657

二ケ領用水さくらの壁のある如く

 冷たい雨がやみ、気温が上がった。たちまち桜が開花し、あっという間に満開になってしまった。
 宿河原の二ケ領用水沿いの桜並木は美しい。約300本のソメイヨシノが壁のごとくに空間を埋めている。ソメイヨシノは、接ぎ木で複製されたクローンである。同じ遺伝子を持つので、一斉に咲き一斉に散る。その美しさは、日本人の理想の桜に重なる。
 接ぎ木や挿し木で大量に栽培することができ、比較的安価。成長は早くて土を選ばず、公園や川沿いで育つのはもちろん、街路樹にも適している。そんな特徴から、今や日本中にソメイヨシノが広まった。「桜前線」という言葉は、ソメイヨシノにこそふさわしい。
 川崎市内にも桜の名所は多い。生田緑地や中原平和公園の桜も美しい。夢見ケ崎動物公園のある加瀬山も捨てがたい。稲田堤の桜もいい。そんな中でも宿河原の桜が映えるのは、二ケ領用水の流れと、桜がたたずむ姿がうまく調和しているからだろう。
 二ケ領用水が作られたのは、江戸時代にさかのぼる。今の川崎市全域を網羅し、全長は32キロになると言われている。川崎の農業を支えてきたこの用水は今は本来の役目を終えているが、憩いの場「環境用水」として復活した。
 よく整備された河岸を歩くと、南武線の線路に突き当たる。頭を低くして線路の下をくぐるのはちょっとしたスリルだ。大きな道路を渡ると多摩川の河川敷に出る。河川敷には、二ケ領せせらぎ館がある。多摩川にかかる二ケ領宿河原堰(せき)も一見の価値がある。
 桜吹雪が舞い、清流に花いかだが流れる様は格別なものに違いない。二ケ領用水の桜、まだ間に合うかもしれない。