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コンデンスミルク懐かし苺喰む

小山正見

写真は、大垣駅ビルの生鮮食品の売り場である。
最近は、苺の品種が増えた。私の住んでいる川崎のスーパーでは「あまおう」とか「とちおとめ」が多い。
全国どこでもそうだろうと思い込んでいたが、ここに並んでいたのは、「紅ほっぺ」「美濃姫」「美濃娘」「華かがり」という品種である。「紅ほっぺ」は全国区といってよいが、あとは命名からして明らかに岐阜の品種だ。
調べてみたら、日本の苺の品種は三百を超える。世界全体の品種の半分以上が日本のものらしい。珍しい苺もある。最近では、白い苺さえ見かける。私としては、赤い方が美味しそうに感じるが、確かに食べてみたい誘惑に駆られる。「淡雪」とか「雪うさぎ」という名で売られているらしい。一粒千円するものも見たことがある。
こどもたちに「苺はいつの季語?」と聞くと、答はばらばら。大方は、冬か春という答が返ってくる。
無理もない。苺に一番お目にかかるのはクリスマスケーキだからだ。次に「いちご狩り」を思い出して、春と答える。いちごフェアは桜の咲く頃に行なわれるのが通例だ。
しかし、歳時記には、苺は夏と記されている。
今は、温室の中で育てるのが常識になっている。しかし、地植えの苺の収穫時期は、五月から六月であり、それなら確かに「夏」となる。
こどもたちがきょとんとするのは無理はない。
今の苺は粒が大きいし、甘すぎるぐらい甘い。だが、私の子どもの頃、今から七十年前はそうではなかった。苺は小さく、少し酸っぱみがある果物だった。だからお砂糖を掛け、その上に牛乳を注ぎ、スプーンで苺をつぶして食べた。牛乳の色がピンクに染まっていく。それが嬉しくてたまらなかった。苺つぶし専用のスプーンまで売られていた。苺の形が完全になくなるまでつぶしたものだ。
さらに、ごちそうの時は、貴重品のコンデンスミルクが掛けられた。あの味は今でも舌の上に残っている。
それから半世紀以上、苺はすっかり立派になった。
こんな立派な苺をつぶすのはもったいない。
もったいなくてしのびないが、一度くらいは潰し鐵でして潰しまくって苺を食べたいものだ。