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ただここに春灯一つありにけり

小山正見

灯りを見て思い出したのは、別役実の舞台だ。
別役の舞台には電信柱が一本だけ、裸電球がぼおーっと光っている。
別役実はいわゆる不条理劇の作家だ。不条理劇の代表作と言えばベケットの「ゴドーを待ちながら」だが、幸運なことに、ぼくはこれも見ている。
別役の劇は舞台装置が簡単でほとんどいらないこと、登場人物も数人と少ないので、高校の演劇部が公演するにはもってこいだったらしい。
僕が別役に出会ったのは、芝居からではなく、『虫づくし』と言う一冊の本からだった。そこから始まって、童話集や脚本を読みまくった。
安部公房に「友達」という芝居があるが(これも観ることができた)、別役はこの芝居を辛辣に批判し、もし「友達」が不条理劇ならばとして、台詞一つ一つを徹底的に批判した。この評論集の痛快さは
並ではない。
ある時、中村伸郎の「虫づくし」の朗読を観た。その雰囲気に酔いしれた。中村伸郎は別役演劇には、欠かせない役者である。
晩年は病気で苦しんだ別役は2020年に亡くなった。今、別役の名前を覚えている人はどれだけいるだろうか。
別役の奥さんは楠侑子という女優さんだった。別役の死後、ある縁で、この方から別役の最後の本を頂いた。
僕はまだこの本を読んでいない。