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楚々として貴方を待ちぬ夏帽子

小山正見

自分は、お洒落には一生縁がないと思っていた。自分で洋服を買いに行ったことなど無かったし、大体その必要も無かった。
管理職になってからは、白いワイシャツと背広があれば事足りた。
退職の時、PTAの方からピンクの服をプレゼントされ、みんなから「似合っている」と言われて、ちょっといい気分になった。新しい発見だった。
しかし、洋服を自分で選ぶ勇気はなかった。
ある時、母に付き合って学芸大学を散歩した。宮川という古い鰻屋で食事をした。
母が亡くなってから、その時のことを思い出し、また学芸大学を歩いた。鰻の宮川は建物ごと消えていた。代わりに見つけたのが、Viridianという名の帽子屋だった。
ぼくは、帽子が好きだったがオーダーメイドの帽子など考えもつかなかった。
店主のIさんと話が弾み、それからViridianに時々通うようになった。
あたらしい帽子が増えていった。被っていると「素敵な帽子ね」と声を掛けられることが増えた。嬉しいものだなあと思った。これがお洒落か!と感激した。
最近は、裏地に凝っている。「素敵」と褒めてくれた人に裏地を見せると、もう一度びっくりしてくれる。帽子は(お洒落は)コミュニケーションツールにもなるんだな。
あちらこちらお洒落する余裕はない。センスも力もない。
だから、一点お洒落主義。
Viridianの店主のIさんが俳句に興味をもってくれて、「帽子屋de俳句」のイベントが昨年の秋から始まった。既に三回。秋には第四回が予定されている。
それにしても、Iさんの仕事ぶりに感心する。丁寧だし、何よりセンスがいい。ぼくは、Iさんのお陰で新しい楽しみを得た。人生が豊かになった。身体が動く限り、頭のお洒落はIさんに委ねるつもりでいる。
興味がある人には、Viridianをご紹介するので、連絡してほしい。本当にいい店ですよ。